(イ)また,上記認定事実によれば,原告Cは,同月27日にまぶしい,目が見えないといった症状を訴えたことが認められるが,上記(1)イに認定のとおり,これは,クレオソート油Rが塗布されてから20日ないし16日も後のことであったこと,しかも,クレオソート油Rは,2回とも,母屋とは離れた屋外ないし外気が通る場所で塗布されたこと,同月11日以降,クレオソート油Rの使用が中止され,渡り廊下が設置された後も,クレオソート油Rの塗布された増築部分が母屋と密閉された形で接合されたこともなかったことに照らせば,原告Cの上記症状について,被告によるクレオソート油Rによって引き起こされたと認めることは困難といわざるを得ない。
(ウ)したがって,被告によるクレオソート油R使用が原告Cの化学物質過敏症罹患の原因とは認められず,両者の間に因果関係を認めることはできない。
3 争点(3)(被告の債務不履行責任ないし不法行為責任の有無)について
(1)上記1及び2に説示したとおり、原告Bについては,化学物質過敏症に罹患したこと,その原因が被告によるクレオソート油Rの使用にあったことが認められるところ,原告らが,被告らに債務不履行ないし不法行為責任を帰責するためには,被告において,本件工事にクレオソート油Rを使用することにより,原告Bが化学物質過敏症に罹患するという結果の発生について具体的に予見できたことを要すると解されるので,以下,予見可能性の有無について検討する。
(2)上記争いのない事実等に加え,証拠(甲2ないし5,48,50,51,61,62,乙20,21,証人E,証人N)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,シックハウスをなくすため,添加物を含んだ建材は一切使わない「無添加リフォーム」を提唱していること,被告は,財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター,NPOエコリフォーム推進協議会及びNPOシックハウスを考える会に加盟しており,建材等から発散される揮発性有機化合物による室内空気汚染がシックハウス症候群の原因であることや,その症状として,眼のチカチカ,喉の痛み,頭痛,吐き気,アレルギー反応,自律神経失調症といったものがあるなど,シックハウス症候群について基本的な知識を有していること,被告従業員のEは,NPOエコリフォーム推進協議会のエコリフォームマスター認定資格者であり,化学物質過敏症や有害な建材,化学物質について一通りの勉強をしていたこと,また,被告の下請大工の親方は,エコリフォームマスター資格を有するとともに,専門の研修・教育を受けた認定パートナーサプライヤー(専門協力業者)であること,さらに,被告取締役のNは,シックハウスを考える会においてシックハウスアドバイザーとして登録されていることが認められ,被告は,シックハウス問題に積極的に取り組む業者として,化学物質過敏症の症状や原因物質について,一般的なリフォーム業者に比べ,高い関心と知識を有していたといえる。
しかしながら,上記1(1)アに認定のとおり,化学物質過敏症は,その病態や発症機序について未解明な部分が多く,そもそも化学物質過敏症というべき病態の存在自体が世界的に議論となっている状況に鑑みれば,被告が化学物質過敏症について有する知識といっても,その量及び程度は極限られたものというべきであるし,上記1(1)ア及び上記2(1)アに認定の事実によれば,化学物質過敏症ないし室内空気汚染(シックハウス)の発症関連因子として指摘されている揮発性有機化合物のうち,厚生労働省が室内濃度指針値を策定した13種類の化学物質は,クレオソート油Rには含まれておらず,しかも,被告が使用したのは,発がん性物質を多量に含んだ有害建材とされる従来型クレオソート油ではなく,これを改良して発がん性物質の含有量を大幅に削減した環境配慮型クレオソート油Rであったことが認められるから,これらの事情に照らせば,医学者でも化学者でもない被告において,クレオソート油Rを使用することにより,原告Bが化学物質過敏症に罹患することを具体的に予見することは不可能であったと認めるのが相当である。
(3)これに対し,原告は,従来型クレオソート油に比べ,クレオソート油Rが含有する有害物質が大幅に削減されているとしても,有害性が無くなったわけではなく,使用上の注意として「床下等を含む家屋内での使用は絶対にしないで下さい」と明記されているとおり,危険な薬剤であることに変わりはないから,被告には,クレオソート油R使用による化学物質過敏症罹患について予見可能性があったと主張する。
しかしながら,上記2(1)イに認定のとおり,被告は,クレオソート油Rを,屋内ではなく,いずれも母屋から離れた屋外ないし外気が通る場所で塗布したのであり,したがって,通常,クレオソート油Rから発生する化学物質は,直ちに大気中に拡散されると予想されるから,このような状況におけるクレオソート油Rの使用により,化学物質過敏症罹患を引き起こすとまで予見することは不可能であったというほかなく,原告の上記主張は採用できない。
(4)また,原告Aは,被告が床下処理に柿渋液を使用すると確約したと主張したうえ,被告はこの確約に違反してクレオソート油Rを使用したので,債務不履行責任を負うと主張する。
しかしながら,証拠(甲2)によれば,被告のパンフレットには,壁,床,天井等の内装仕上げに関する記載はあるものの,床下処理に関する記載はないことが認められる。また,原告A及び原告Bは,原告Aの上記主張事実に沿う供述をするが,証人Eの証言に照らし,たやすく採用することができない。したがって,原告Aの上記主張は理由がない。
(5)なお,仮に,原告Dについても化学物質過敏症に罹患していると認められ,かつ,被告によるクレオソート油Rの使用と原告C及び原告Dの化学物質過敏症の罹患との間に相当因果関係が存在するとしても,被告において,クレオソート油Rの使用により,原告C及び原告Dに化学物質過敏症を引き起こすとまで予見することが不可能であったことは,上記(2)及び(3)の説示から明らかである。
第4 結論
以上のとおり,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。マンションのリフォーム工事の見積りの比較のサイトも紹介します。